オ)新しい世界を見た青年

これは私が体験したほんとにあった怖い話です。

その日は八月の頭の熱帯夜でした。

突然炭酸飲料が飲みたくなることってありますよね。

午前二時頃でしたが、私は「コーラが飲みてー!」と絶叫し、110円を握り締めてアパートを飛び出したのです。

その辺りに住んでいるのは学生ばかりで、私自身も学生だったため、上はティーシャツ、下はパジャマという格好で外に出ました。

そして無事にコーラをゲットし、帰途に着くことになりました。

すると、向こうから一人の女性が歩いてこちらに来ています。

髪を肩まで伸ばし、ショルダーバックを抱えたOL風の女性で、遠目でしたがなかなか美人のように思えました。

私は近眼だったこともあり、空を見上げるか、下に俯くかして歩いていました。

当然、そのまま歩くとすれ違うことになります。

その女性との距離が1メートル程になったでしょうか、私は視線を彼女に向けました。

その瞬間、私の呼吸は確かに止まりました。

心臓が跳ね上がり、動悸は激しさを増してゆき、明らかにそれまでと違う汗が吹き出しました。

そこで私が見たものは・・・

なんと、彼女は男だったのです!!

このときのことを話しても、ほとんどの人は笑い話としか受け取ってくれません。

しかし私は確かに、ファンデーションを塗りたくり、真っ赤なルージュを引き、付けまつ毛をつけ、腰をくねらせて歩く彼女、もとい彼に恐怖したのです!!

正直、このときを超える恐怖は、五人に囲まれた時にも感じたことはありませんでしたし、これからもないでしょう。

と祈りたい。いや、まじで。

地方から出てきたものですので免疫が全くないんです。

そういうご趣味の方達がいることは承知していたし、それに関してどうこういうつもりも全くないんですが・・・

私にとって、あの瞬間は異世界を垣間見たような、恐怖以外の何者でもありませんでした。

今では立派なトラウマです。


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