コミットメント(約束)は一貫性を抱かせる効果がある。一旦約束をした人がその約束を破ることに罪悪感を感じるのもこれによるし、またその人が約束をどれだけ多くの人に公言したかによって約束を破る後ろめたさが決まることも往々にしてある。これをコミットメントと一貫性という
一貫性は承諾誘導などに用いられることがしばしばある
目次
自己承認と期待
承諾などの明確な態度をひとたびすると、結果もそのようになると信じ、思い込む。最初から期待しなければ、こんなにがっかりすることもなかった、というのも期待が一貫性となっていたからである
(例) ある人が馬券を買った後と前では、その馬が優勝すると信じる気持ちの度合が違ってくる。実際には、その馬が勝つ可能性は何も変わっていないのに
約束と承諾による一貫性
相手をコントロールするには、相手に態度を明確にさせる、つまり相手に約束・承諾をさせるのが効果的である
/a コミットメントと引きの二重利益
a-例 玩具メーカーの戦略
クリスマスの前からAの玩具を宣伝する。当然子どもたちは欲しくなり、親に買ってもらう約束をする。しかしクリスマスのその日にはAの玩具は少ししか卸さない。親が代わりのBの玩具を買う。それからしばらく経った後で、メーカーは再びAの玩具を宣伝する。子どもたちは「買ってくれるって約束したじゃないか」と親にねだる。こうして玩具メーカーは二倍の利益を上げることができた
/b 小大コミットメント
小さなコミットメントから始め、段階的に大きなコミットメントを引き出していくのが効果的である。容易であり、些末なことだと人は軽い気持ちで承諾しやすいという心理を利用したものである
b-例 慈善団体の戦略
寄付を集めるに際し、顧客にまず電話をかけ、「アンケートを取りたいのですが、もし三時間ほど寄付を集めるボランティアに参加してくれるように依頼されたらどう答えますか?」という質問をした。こうしてコミットメントを引き出した数日後に、実際に「参加してほしい」と依頼した
b-防衛法 小さい事だからといってよく考えずに安易にコミットメントをしてはいけないということ。先の馬券の例のように、自身も気づかないうちに思い込みを強めてしまうことになりかねない
/c 公言と一貫性
コミットメントを公言することが事実やイメージをそのように変える。また、相手にイメージを言い続けることで、自分も相手も自己イメージが変わることになる。これを公言と一貫性という。特に自分の自己イメージが変わることを自己正当化という
c-例 ある会社は毎年エッセイ・コンテストを実施している。コンテストの参加者は皆、「私はこの製品が大好きです。なぜなら~・・・」という言葉で始まる
コミットメントを周りに公表することで、その人は一貫性を高める傾向がある。煙草をやめるにはどうしたらいいかも分かるでしょう
努力と一貫性
相手に努力をさせることでその物事への思い入れを強め、離れたくても離れられないような一貫性へと持ちこんでいく。このような手法で一貫性を高めることを、努力と一貫性という
/a 筆記と一貫性
相手の自己イメージを変えるには、口頭での同意だけでなく、文字を書かせるのも効果的である。これを筆記と一貫性という。ただ書き写すように求めて書かせたものでも効果は発揮される。書き記すのがコミットメントとして効果的である理由は、口にするだけのコミットメントよりも努力を要するからである
/b 努力の愛着効果
自分が建設し、今なお存続しているものには大抵の場合愛着があり、誇りを持っているものだ。これを努力の愛着効果という。これを建設的に考えれば、愛着・執着を持たせるには努力をさせることが効果的である、ということになる
自発意識の強力コミットメント[自発意識の不退効果/自説の一貫性]
自分の意思に反して賛同した者は、元の意見を持ち続ける。逆に考えると、自分の意思で賛同したものにはなかなかそれをくつがえすことができない心理がある。これを自説の一貫性という。自分がコントロールした相手の行動には、外からの圧力を含んでいることが悟られない、つまり相手が「自分がそうしたいからするんだ」という意識を持たせることが重要である。報酬などのインセンティブが魅力的過ぎたり、強い脅しは短期的なコミットメントにはなっても、長期的なコミットメントにはつながらない
(例) 子どもには、「嘘をつくとすごく怒るからね」としつけるのではなく、嘘をつくことは悪いことなんだよと、思い込ませるほうが長期的な観点からすると効果的である
(原理)
人は、信念に反する事柄は黙殺したり低い価値しか与えない。これを自説の一貫性の心理(無知覚の低評価)という。人は確証的な情報、つまり自説に有利だったり、自説を裏付けるような情報には、過剰な信頼を寄せる。なぜなら、「そのほうが楽だから」。自説を裏付けるデータばかりを集め、自説に反論するデータを軽視してしまう。つまり、人は「これが正しいとすると、こうなる」という図式ばかりに捉われ、「これが正しいとすると、こうはならないはずだ」という図式に対する検証を怠ってしまう。なお、自説について記憶にあるデータを深く探っていけば行くほど、自説を裏付けるデータばかりが浮かび上がってくる
ローボール・テクニック
まず、うまみのある、かつ重要な決定をするというコミットメントを引き出させておいてから、そのあとで取引条件の中からプラスの面を取り除いたり、マイナスの面を付け加えたりする。このテクニックを、ローボール・テクニックという
(例) まず重要な決定のコミットメントとして、「授業に参加したいか」と尋ねる。その後で、開始時間が朝七時であることを告げる
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ローボール・テクニックのローボールとは、容易に手の届きそうな低く投じられたボール、すなわち最初に呈示される「うまみのある条件」を指す。「うまみのある条件」にするには、
(α) A-⇒A+(Aからマイナスの面を引いたローボールをまず呈示し、そのあとでそのマイナスの面を付加する)
(β) A+⇒A- (Aに最初プラスの面を付加し、そのあとでそれを抜く。+は後で抜くため、うまみのある嘘でいい)
次回のコミットメント[お医者さんのコミットメント]
お医者さんは診察で善い行いを相手にした後に、「では一週間後にまた様子を見せに来てください」とコミットメントをさせる。今回、または善い行いをした最後に次回の約束を取りつける。「今度は~できたらいいね」と言って、相手がうんと言ったらそこから具体的なことを決めていく。将来の不確実性は取り除けば実現可能になる[不確実性の除去(“解決”)]。これを次回のコミットメント[お医者さんのコミットメント]という