●0/誘導[示唆/誘発]
言動で誘導・コントロールする心理について
ここでは承諾は誘導に含まないとする。関連するものに“注意誘引”がある
(例) 死刑制度に反対の人が、例えば自殺などの類の事件を起こす。証拠をわざと残し、逮捕された人は処刑される。実際は冤罪だったとして、結果死刑制度は見直されることとなった。一人の命が未来の多くの人の命を救ったのだ。対象にミスを誘発するというか、ぼろを出させるというか、難しい問題だが、一つの手段である
誘導
誘導において基本的となることは、自分で発生させ、それを拾うこと。この誘導は、広義ではあらゆる心理を包摂する。まず大きく三つに大別できる
/a 基本的誘導
えさとなる事柄を上げたり、誘発によって意図して相手を誘導すること
a-例 例えば、えさとなる事柄を上げておいて、最後にそれを上回るようにする
この仕事がとても好きだと言っておいて、「復帰したい?」と聞かれたら、「君のほうが大事だ」。この例では「この仕事がとても好きだ」というところが“えさ”となっている
/b 感情誘導
ある感情を引き出したい、思い起こさせたいときに、それを誘発させるような言動によって誘導すること
b-例 二人の浮浪者が橋のたもとに座っている。Aの浮浪者は二十代の青年であり、Bの浮浪者も同じ二十代だが女性で、腕の中に生まれて間もない赤ちゃんを抱いている。このAとBの浮浪者では、Bのほうが通行人の共感を受けやすい。ちょっとしたことで、われわれの判断は客観的でなくなるばかりか、大きなミスをしてしまう。このBの浮浪者の腕の中にいる赤ちゃんが本人の子どもではないとしても、感情的にBに同情する状況になっている
/c 基準誘導
人は周りの環境によってその場の基準を判断したりすることが多い。基準を意図的に作ることによって相手を誘導するのが基準誘導
c-例 難民救済の募金カンパをしている。Aの人が持っている募金箱の中には一円や十円といった硬貨が少しばかり入っている。一方、Bの人が持っている募金箱には、紙幣がたくさん入っていて、硬貨にしても500円玉ばかりだ。一般には全然金の入っていない箱よりも、すでに少し金の入った箱により多く金を入れる人が多いだろう。また、金を入れる人の心には、Aでは一円、Bでは紙幣が反射的に選択の基準になってしまう
不安をもたせる
a 社会的証明の不安効果(“社会的証明”)
集団生活において、みんなと違うと不安になる心理がある。この効果を誘導に使うなら、不安をもたせるということを心がけるのだ
b “引き”の活用
・希少話法(“希少性”)
~だけ、~しか、など
期待誘導
期待する言動をすることによって相手をそのように誘導することを期待誘導という
(例-a) 「大丈夫。私は~だと信じてるから」
(例-b) 会う前から期待、つまり印象を強く付けておくというのは重要なこと。会う前から期待感を与えておくと交渉しやすい。例えばある人は、アポをとるときに「では5時3分にまいります」と言う
“ありがたい”誘導
「~のほうがありがたい」と言って一方向に釘を打つ誘導法
示唆誘導
伝えたいものを強調・誘導させるには、伝え手が伝えたい事柄をさりげなく演じると効果的である。これを示唆誘導という
例えばスマステのグルメ特集の香取慎吾のような立ち回り。香取慎吾は視聴者と一緒に試食をすることができない。ゲストが食べているのを視聴者と同じように羨望のまなざしで見つめ、「美味しそう~っ」と連呼する
管理とコントロール
管理をすると相手をそのようにコントロールでき、誘導することができる
(例) 仕事を辞めた人に電話番号を教え、「仕事が決まったら連絡して。飲みにでも行こう」と言う。これで辞めた人はすぐ次の仕事を探さなければならなくなる
選択肢とコントロール
選択肢を操作することによって相手に道を作り、そのように誘導する
(α) 相手の選択肢を広げる話法 ○
(β) 相手の選択肢を狭める話法 ○or×
(β-例) 候補限定話法
いくつか候補を提示しておくことでその中から選ばさせ、誘導する話法
(γ) 自分の選択肢を狭める話法 ×
沈黙話法
相手から話を聞き出したいとき、沈黙のワナを使う。自分が沈黙して相手にしゃべらせる話法である
他には話法
「他には?」という質問によってさらに相手から答えを聞きだす話法。この話法は相手との人間関係が希薄なほど有効である可能性がある
啐啄の原理
啐啄[そったく]とは、雛が卵から孵化するとき、雛が内からつつく頃合に、母鳥が外からつつく様のこと。なにかを変えるには、主体とその周りにおいての協力環境が大切である
(例)
ある小学校教師は「ほめ言葉のシャワー」と「成長ノート」を実施している。ほめ言葉のシャワーは教壇に立った一人の生徒をみんなでほめるというもの。これにより自信が生まれる。自信のなさから生まれるいじめをなくす。成長ノートは生徒が思ったことや成長したことをノートに書く。普段口にして言えないようなことも先生は知ることができる。大事なのは自信をもたせること。そのためには周りからの支えや反応が“安心”となることが大切なのだ
人を変えるには、その人自身のやろうという“自信”と、それを周りが後押しする“安心”が同時に生まれている状態が大切である
心理的覚醒行動
毎日なにげなく過ごしている生活のなかで、予期しない出来事や行動が相手の気持ちに大きな影響を与えることがある。マンネリ化している膠着状態から相手の心を目覚めさせる手となり得る。それには、あるそれまでの関係の段階から、次元の違う関係の段階を示すことである。新鮮な段階の関係によって驚いた相手が新たな対応を考えることになる。平凡な日常の中に突然事件が起きたときのように。このように、新しい段階を見せることで相手の反応が変わることを心理的覚醒行動という
(例)
アメリカ人男性が日本人女性と付き合っていたが、なかなか思うように関係が発展していかなくて悩んでいた。そこで、彼は急にアメリカへ帰国すると告げると、彼女は帰国の話を聞かされたことで初めて相手の存在価値に気づき、改めて自分の気持ちを問い直すきっかけになった
――
相手ともう一歩親しくなりたい、相手の領域にもう一歩踏み込みたいとき、思い切って何か大胆な行動に出てみると、二人の関係に新しい展開の道が見えてくるかもしれない。特に望ましいのは、どこかに遠出(二人旅)をすることである。これは手間の受動性(“思い入れ効果”直下)の効果も併発させるため、マンネリ化の解消に効果的である
●1/思い入れ効果
思い入れを与えることが人にもたらす効果について
執着心を高めたり、苦労をかけたりすると、そのものに思い入れが発生し、それをえさに誘導しやすくなる
手間の受動性/手間の能動性
時間やエネルギーなどの「手間」を自分が負う場合には手間の能動性、「手間」を相手に負わせる場合には手間の受動性になる
人は、特に好意をもっている人(恋人など)に頼られると、「しかたがないなあ。私(俺)がいなくちゃダメなんだから」という心理がはたらく。恋愛関係において手間や面倒は、自分は信頼されているという確認と、自分はその人のためになっているという満足感を与える効果があり、それによって好意性が高まるといえる。手間の能動性は、自分の、相手に対する好意が高まり、手間の受動性は、相手の、自分に対する好意が高まることがある
a 時間とエネルギーを使い、またそれをさりげなくアピールする。例えば少し遠いレストランに行ったりとか、手書きのラブレターを書くとか、「タクシーがつかまらなくて困ってるの。迎えに来てくれない?」とか。このように時間とエネルギーを相手に使わせることは自分の価値を相手に再認識させる効果がある。また、手間の受動と能動は一方に偏ることなく、バランスが大事である
意識的手間(“回避[断り]”)
人を介したり、自分が手間をかけると面倒度が上がり、断りやすくなる。これを意識的手間という。無意識の手間は思い入れ効果をもたらすが、意識した手間は逆に相手に「手間をかけさせて申し訳ないな」と思わせる心理がある
植え付け承諾
相手に要求を承諾させるためには、相手がもし承諾しないと、人として思いやりがない、人の本来もつ正義感や慈愛の心に訴えかけるような心理にさせることが効果的である。そのためには相手に事前に何かしらの自分に対してのイメージや思い入れを植えつけるのがよい。これを植え付け承諾という
a 相手に貸しを作る
相手に貸しを作ることで、相手からは借りを作ったことになるので、その借りを承諾にはたらかせるのである
a-1 罪悪承諾
「悪いことをさせちゃったな」というような罪悪感の貸しを作る
a-2 返報承諾
自分の要求を通らせたいなら、まず相手の要求に応えることである。命令や要求を相手にさせるようにはたらかせ、それに従ったあとに自分の要求をする
a-2-例 上司と部下の関係でも、いつも命令や要求をしてくる人に頼み事はしたほうが承諾率が高い
a-3 誠意承諾
「いつも(私のために)頑張ってくれている」というような、相手に対しての誠意を見せる。まず基本として、人の心を動かすのは誠意と利他心である。私利私欲を離れて、正直に熱心に物事にあたる、相手のために何かをする。この二つの要素を相手にみせることで相手の心は揺らぐ
思い入れと好悪感の相関関係
親切にしている人ほど、相手の学習能力の低さに敏感になる心理がある。親切・献身するということはそれだけ相手に対して思い入れや努力を使うわけだから、当然そのフィードバック(反応)には敏感になる。学習能力が低い、例えば、一度教えたことを忘れてしまったときに、「あんなに丁寧に教えたのにどうして覚えない」と思い、思い入れがある分かえってそういうことに嫌悪感を募らせる場合がある
●2/伝導的喚起
伝導的喚起とは、意図した何かを相手に発生させるために、自分や周囲の環境がその素となる因子を発生させること。相手に何かを発生させるためには、その条件を整える必要がある。例えば雰囲気作りなど
姿勢同調シンクロニーのフィードバック(“好意承諾”)
親友同士の会話中、二人の動きは非常に一致していた、という実験結果がある。これは、お互いが一瞬のうちに相手の動きをキャッチし、それに反応していることによって生じるものである。これを姿勢同調シンクロニーという。どうもこの相手とはテンポが合わないな、と感じたら、相手のしぐさをまねてみるのが効果的である。例えば、「いや、それはちょっと違うんじゃないか」と相手が腕組みをしたら、少し遅れて自分も腕を組みながら、「そうでしょうか」といってみる。相手がコーヒーに手をつけたら、こちらも飲む。このように、相手の動作に合わせ、スピードもさりげなく合わせるのである。相手のしぐさをまねているうちに、次第に会話や動作のテンポが合ってくる。すると、二人の間に共通のテンポが生まれ、相手もそれに乗って会話もはずむようになり、相和の形成につながる
北風と太陽的伝導
北風ががむしゃらに吹きつけるほど、旅人はマントをしっかり押さえてしまう。相手の警戒心を解くには、無理強いや姑息な手を使わないであっさりと引いてみるとよい。拒否の連続は反発心を高めるだけだ
(例)
要求や説得の際、相手の強い「ノー」に対して、あっさりと「そうですか。では、もう一度考え直しましょう」とこちらが引く態度を見せれば、相手の緊張感がフッと緩み、まず警戒心を取り除くことができる。そして後日考え直したプランを提案するなど、誠意を見せて対応し続ければ、相手は無理強いをしてこない良い人というイメージがこちらに対してあるので、「ここぐらいは妥協してやるか」という姿勢のまましっかり話し合いができる
親密度の互恵性
人は自分に親しみを示してくれた人には、同じように親しみをもって返すものである。これを親密度の互恵性という。相手と親密になりたいなら、まず自分から親しくすることである。初対面ならともかく、二度目、三度目と交渉が重なってきたら、かなり親しげに振る舞っても不自然ではない。実際の親密度より一ランク、ニランク上の親しさを身振りで表すことで相手をリードする。親しそうな感じで振る舞えば、初めのうちは相手にも多少の戸惑いが見られるかもしれないが、その親しみは相手に徐々に伝染し、相手も同じ程度の親しみで返してくるだろう
頼みごとの承諾率を上げる伝導的喚起(“対人的証明”)
人に頼みごとをする、されるという人間関係は、個人レベルで考えると、マイナス効果のみをもたらすように思えて躊躇しがちだが、二人の関係レベルで考えるとマイナスではなく、むしろプラスの効果をもつものである。頼む側が、頼むことのプラスの面を分かっていれば、相手に「自分は信頼されているからこそ頼まれているんだ。それでは断れないな」ということを強調するためにある伝導的喚起を施すことで承諾率を上げることができるはずである。それはつまり、頼む相手に「たしかに信頼されている」という確証を持たせるきっかけとなる思考因子を作り出すことである。例えば普段から、よく頼みごとをする、自分(頼む人)にとって大事な頼みごとをする、「尊敬している」など言葉によって信頼されていることを認識させておく、対象の人がいないときに周りに公言することによって、公言を聞いた人が対象の人に話すなどの間接的伝達を図る、などである