ある中学校で体育館に看護婦の幽霊が出るという噂があり、好奇心旺盛な仲良し五人組が噂を確かめるために夜の学校に行くことにした。
その学校は体育館と校舎が渡り廊下でつながっていて、体育館に入るには校舎を通らなければならなかったのだが、非常口が常に開いていたため五人はそこから暗い校舎へ入ることができた。
体育館の前まで来ると、体育館のドアはわずかに開いていて、中からは、
「ガラガラガラガラガラ」
とものすごい音がしている。
五人はとても怖かったが勢いで中に入ることにした。
中に入ると、
「ガラガラガラガラガラガラ」
というものすごい音を立てて、髪を振り乱した看護婦がこの世のものとは思えないスピードで円を描きながら乳母車を押していた。
五人の存在に気がついた看護婦はピタリと止まり、五人のほうにゆっくりと振り返った。
五人は恐怖のあまり一目散に逃げ出した。
しかしその看護婦はものすごい速さで追いかけてきた。
後ろを振り返る余裕がなくとも乳母車の「ガラガラ」という音で後ろから追いかけてくる看護婦の速さがわかった。
パニックに陥っていた五人は仲間のことまで気がまわらず、五人のうち二人は非常口へ、あと二人は正面玄関へ、そして残りの一人はあまりの恐怖に判断力を失い階段をのぼって二階へと逃げた。
うまく外に逃げ出した四人は仲間の無事を確認することなく一目散に自宅へ逃げ帰った。
学校に残された一人は暗い学校の長い廊下を全速力で走っていたが、看護婦は階段までも乳母車を押したままのぼってきた。
二人の距離はだんだん縮まっているように感じられた。
逃げ場を失ったその学生は目の前にあったトイレに逃げ込み、左から二番目の個室の中でひざを抱え震えていた。
すると看護婦の乳母車の音がだんだん近づいてくる。
そしてトイレの入り口まで来ただろうと思われた時に、
「ガラガラ、ガラガラ、ガラガラ」
と今までとはちょっと違ったリズムの音がした。
学生にもそれが、看護婦がトイレの入り口あたりを往復している音だということにはすぐに察しがついた。
しばらくすると看護婦はトイレの中に入ってきて、右から順番に「コンコン」とドアをノックし、「ギィィィィ」とゆっくりドアを開けては「ここにはいない・・・」と呟く。
自分の個室に近くなるにつれその学生の恐怖心は膨れ上がり、今にも失神しそうだった。
しかしいざ左から二番目の個室の番になると、今まで起きていたことが夢であったかのように何の物音もしなくなった。
ノックの音も乳母車の音もしない。
「助かった」と胸をなでおろした学生だったが、恐怖心が完全に消えるわけもなく、もうしばらくトイレにいることにした。
長い時間が過ぎ、あたりは少し明るくなりやっとトイレから出る決心がついた学生はゆっくりと立ち上がりドアノブに手をかけた。
すると、目の前に長い糸のようなものが・・・。
ゆっくりと顔を上げると、看護婦が長い髪を垂らしてドアの上から中学生をじっと見ていた。