自然と哲学
/a-1 第一実体
特定の「個物」をさす。たとえば“人(第二実体)”のなかの“アリストテレス”や“プラトン”などの個物を第一実体という
a-1-a 特徴
(1) 他の個物の述語として機能することがない
たとえば「アリストテレス(第一実体)は人(第二実体)である」は成立するが、「アリストテレス(第一実体)はプラトン(第一実体)である」は成立しない
(2) 個物が属している種(第二実体)を主語とした文の述語になることはない
たとえば「人間(第二実体)はアリストテレス(第一実体)である」という言い方はふつうしない。第二実体はそれが第一実体より抽象的な観念であるために、第一実体を述語にした命題の主語になることができない
/a-2 第二実体
第一実体よりより抽象的に、カテゴリーや種でくくられたときのその総称される観念をさす。たとえば“アリストテレス(第一実体)”や“プラトン(第一実体)”は、“人(第二実体)”というカテゴリーの中にある。/プラトンの提唱した普遍概念としてのイデアは第二実体であり、第二実体は、存在ではない。個物のみが存在すると考え、普遍であるイデアが個物から分離し、実体化されることはない
/b 四原因
自然物やイメージの構成における四つの原因(変化の原理)。「質料因」「形相因」「始動因」「目的因」の四つ(始動因と目的因についてはここでは説明しない)
b-1 質料因[ヒューレ/質料]
材料。銀盃においては銀、椅子においては木というように、質料それ自身としては、不定であらゆる個物の基礎であり、国有の形はどんな形にもなりうる。また、エイドス(=性質)が体現化されている「形」の材料。たとえば椅子は木(ヒューレ)からできている。物理的な側面でいうならば、人間は身体(ヒューレ)とよばれているものからできている(といっても“形”や“構造”を指しているのではなく、ヒューレといった場合はそれは“材料”をさしている)
b-2 形相因[エイドス/形相]
個物にそれぞれの特徴を与え、それを他の個物から区別する原理。すなわち性質。また、材料が何になるかを規定するもの。木は椅子にもなりえるし、本棚や家にもなりえる。椅子を作りたいならば、木という材料があることと作り方を知っている必要がある。この「作り方」は椅子が椅子であることの原因のひとつになっている。材料があって、それを規定するものがあることで、形がつくられたり、イメージが想像できる
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個物は、質料と形相の合成物で、質料だけでも形相だけでも個物は成立しない。この意味でプラトンのイデアに当たるが、イデアのような個物の外にある超越的原理ではなく、個物に内在する原理である。ヒューレだけ存在していてもそれは無限の可能性を秘めた「木」だけで、そこにエイドスをあたえなければ(つまり一つの可能性に限定させなければ)「椅子」になるか「本棚」になるか「家」になるかは決められない
/c 可能態と現実態
個物は決して静止しているものではなく、たえず生成・運動している。生成・運動の原理は、可能態と現実態のふたつの様相である。個物は絶えず、可能態への過程の中にあり、これが生成とか運動である。可能態から現実態への移り行きは、材料(ヒューレ)が形(エイドス)を求めて、現実していく過程である
c-1 可能態[デュナミス]
可能性をうちに含む状態。つまりヒューレがエイドスと結びつくまえの状態で、ヒューレがヒューレたるゆえんである“どの個物になるかの可能性をたくさん秘めている”という性質をもっている状態をさす
c-2 現実態[エネルゲイア]
可能性が現実された状態。デュナミスの可能性が特定され、現実化(個物化)したもの。すなわち、ヒューレとエイドスが結びついて「個物」になった状態。「第一実体」の特徴はそのまま「現実態」の特徴として当てはまる。つまり「個物」「第一実体」「現実態」という三つのものが同一のものとしてイコールの関係で結び付けることができる
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アリストテレスは、事物の存在と変化を、質料―形相と可能態―現実態、の概念によって説明している