概要①~都市伝説~
都市伝説は、近代に広がる噂話の一種で、詳しい分類は、「民間説話」の下位分類である「伝説」となる。
都市伝説は、若者、都市生活者、高等教育を受けた人など、民間のいわゆる「凡人」によって語られる。
近年ではインターネット掲示板・ブログ等ネット由来のものが出てきておりネットロア(インターネット・フォークロア:インターネットを使って世界中の人たちに伝えられている民話やうわさ話という意味)と呼ばれることもある。
伝説であるので、古くからの民話と同じように、大真面目に語られ、口から口へと広がっていく。
都市伝説の最大の特徴として、「これは本当のことだ」として語られることが多い。
都市伝説が一過性の噂・デマに終わらず、伝説化する、つまりニュース性がある要素として以下が挙げられる。
・「友達の友達」などの身近な人に起こった真実として語られる。
・事実に即した生き生きとしたものになっている。
つまり都市伝説=伝説であるから、都市伝説の中には実話は存在しないのだ。逆に仮に実話であったとしたら、その時点でそれは都市伝説ではなくなるということである。
都市伝説の話の素地は、事実からだったり噂話からだったり、あるいは完全に創作だったりする。
都市伝説も噂の一種であり、果たしてどのように蔓延するものなのか。
噂が広がるプロセスとして、2つの例を紹介する。
都)オイルショック
1973年、オイルショックによるトイレットペーパー騒動が起きた。
懐かしの出来事系の番組で、古い映像を見たことがある人もいることだろう。
大阪のあるスーパーで、特売用のトイレットペーパーの広告に、
【紙がなくなる!】
と書いたものがあった。
『安売りで売るから、すぐに売り切れてしまうよ』
という意味だったらしいのだが、あまりにも言葉が足りないというか、使った言葉がまずかったように思う。
この広告を見て300人近い主婦達がトイレットペーパーを求めて列を作った。
500個のトイレットペーパーは2時間で完売。
実際、原油価格が高騰していて、紙がなくなるかもしれないという不安心理が働き、噂が一人歩きして各地に広まり、あちこちの店舗で紙を求めて行列ができるようになった。
この様子をマスコミが取り上げたため、急速に全国に混乱が伝わっていった。
高度経済成長期で、惜しげもなくモノを消費していた国民にとって、物不足に対する恐怖がパニックを起こし、全国的にトイレットペーパーやティッシュペーパーを求めて騒動が起きたのである。
都)豊川信用金庫事件
1973年、とある女子高生が卒業後の就職先の話をしていたことから話は始まる。
豊川信用金庫に就職が決まっている子に対し、『豊川信用金庫は危ないんじゃないの~?』と、友達が茶化した。
言われた本人は気にしていなかったのだが、下宿先の叔母の家に帰宅してからその話題が出た。
この叔母が、豊川信用金庫の近くに住む知人に『豊川信用金庫が危ないっていう噂がある』と言うと、単なる噂だと言われた。
こうして、人から人へ、徐々にこの噂は広がっていくが、誰も本気にはしていなかった。
ある日、豊川信用金庫の噂を知るクリーニング店に、慌てた様子で電話を借りに来た男性がいた。
電話の内容は、『今すぐ豊川信用金庫で120万おろしてきてくれ』というものだった。
そばで聞いていた店主は、とっさに噂を思い出した。
そしてすぐに自分も豊川信用金庫で180万円おろしてきた。
もちろん、電話を借りに来た男性は自分が必要でお金を用意するように電話をしていただけなのに、噂を知っていた店主は、噂は本当だったと勘違いしてしまったのだ。
友人や得意先にも連絡し、その中にはアマチュア無線を趣味にしている人もいて、無線でも呼びかけてしまった。
結果、その日も翌日も、豊川信用金庫では預金を全額引き出す人でパニックが起き、1日で5億円近くの金額が動くことになったという。
更に翌日には派生デマも起き、銀行内でお金の使い込みがあった、5億円もの持ち逃げがあって経営が怪しくなった、理事長が不況を気に病んで首をくくったなどのデマまで発生した。
ここまでくるとマスコミも報道するようになり、当時の大蔵省の財務局長や、日本銀行支店長が連盟で経営を保障する張り紙をしたり、理事長も駆けつけた客の対応に当たり、なんとか騒ぎは収まった。
警察は、女子高生が豊川信用金庫の話をしてからたった8日でこの騒動のデマの伝播ルートを解明してマスコミに発表したことで、事件は一気に沈静化した。
概要②~都市伝説~
このように、噂にはニュース性がある。
その中でもとりわけニュース性が高い噂が、都市伝説へと成り上がるという仕組みだ。
現在横行する都市伝説の中には、ほんの一握り、事実であるものが存在するかもしれない。
もちろんそれは事実だと証明されるに至っていない真実だ。
残念ながら私はまだその例に当たったことはかつてない。
ただ、都市伝説が事実になったという例はわずかだが3例ほど見たことがある。
その例は、都市伝説自体は事実ではなかったものが、後付けのように事実に即したものだ。
つまりそれが可能なのは、その都市伝説自体の内容が実際に世の中で実現が可能な程度の範疇に位置するものでなければならないということでもある。
単なる噂が事実となる。
そんなこともありえるというのも、都市伝説の魅力を高らしめる一つなのかもしれない。
※※
今回は都市伝説についてもう少し掘り下げてみよう
ご存知のとおり、都市伝説に必要な要素には「真実味(不安)」と「ニュース性」がある
まず真実味を出すためには、例えば、「友達の友達」(Friend of A Friend、略してFOAF)などの身近な人に起こった真実として語られたり、「これは新聞に載っていた話」として紹介されたりするものだ
多くの都市伝説においては、話の面白さ,不気味さが主であり、伝説中の人物や企業,地名は、話し手や聞き手に身近なものへところころ変化する
例えば、
『ファストフード店のハンバーガーにはミミズ肉(あるいは巨大な鼠)が使われている』、
『ファストフード店のフライドチキンには3本足の鶏の肉が使われている』
などという都市伝説では、あるときは「ファストフード店」として『マクドナルド』が選ばれるが、あるときは『ロッテリア』や『ウェンディーズ』などの他のファストフード店が選ばれる
さらにはより具体的に、『駅前のマクドナルド』、『交番そばのロッテリア』などのように、個々のファストフード店が標的に選ばれるときすらある
また、都市伝説のカテには陰謀論や疑似科学、あるいはゴシップ,デマゴギーなども含まれることがある
一見新しそうに見える都市伝説であっても、その起源が古くからの神話や民話にあったり、あるいはより古い別の都市伝説の焼き直しだったりする事が多い
これはブルンヴァンら研究者により指摘されている
都市伝説には起源や根拠がまったく不明なものも多いが、何かしらの根拠を有するものもある
特定の(大抵は何でもない)事実に尾ひれがついて伝説化することが多い
たとえば「東京ディズニーランドの下には巨大地下室があり、そこで賭博等の行為が行われている」という都市伝説は、同施設が実際に巨大な貯水用地下室を持っていることが起源の一つになっている
補足だが、賭博場は地下ではなくランド内の『ワールドバザール』の横という説もある
さて、ここからが今回の佳境なのだが、都市伝説は、若者,都市生活者,高等教育を受けた人などの「普通の人々」によって語られるが、都市伝説の伝播に重要な要素として、
それが真実として語られる、というものがある
ブルンヴァンによれば、
『「これは本当のことだ」として語られるのは、伝説が形成される代表的な回路』であり、『この事実は古くからの民話であろうと、都市伝説であろうと変わらない』
都市伝説は、『古くからの民話と同じように、大真面目に語られ、口から口へと広がっていく』のだ
都市伝説はマスメディアによっても広められることがある
これは古くからの民話にはない重要な要素である
また、根拠のない噂を新聞やテレビの情報番組が「事実」として誤報してしまう事で、噂が都市伝説に発展することがある
また、マスメディアが報道した内容によって直接の損害が発生しなければ、当事者や関係者もすぐに訂正,謝罪をマスメディアに求めないので、それも「誤報」が広まったままとなる要因の一つと言える
新聞やテレビが、都市伝説を都市伝説として紹介した時に読者,視聴者が勝手に「事実」だと誤解してしまい、事実として周囲に伝達していくことで都市伝説が爆発的に流布するのだ
マスコミの報道により、虚構が事実として広まるのである
都市伝説を間違った解釈で、例えば虚構を事実だと認識したり、事実を虚構と認識してしまうなど、盲点に気をつけなければならない
一つめのポイントとしては、都市伝説には常識的な感覚では突飛なものが多いので、合理的な説明が試みられて真実味が加えられる事がある
そしてこれが一番重要なポイントなのだが、都市伝説だからといってそれが虚構だとは限らないということだ
虚構=都市伝説なのは確かに確かだが、都市伝説=虚構という回路での解釈は誤認識を呼ぶことがある
どういうことかと言うと、話自体がそれが本当に作り話なのか伝説としていいのかというところに行き着くためには、その話を虚構だと裏付ける何かしらの科学的根拠が必要だという点だ
たまにこの点を明瞭にするために、話のあとにこの話が作り話である理由を解説として載せている場合がある
話が都市伝説として格付けされるためには、話が作り話でなければならない
だから、なんの解析も行われていなく真実なのか作り話なのか未知のままの話には、都市伝説というカテに属せる資格はあるだろうか
厳密に言えば、真偽のはっきりしない話には、その話がもしかしたら真実であるかもしれないという一縷の可能性があるので、よって都市伝説と言うにはふさわしくないというのが結論だ
しかし、今日まで都市伝説の定義になりうるまで深く蝕んでいる新たな定義が存在するのには目をつむるわけにはいかない
それはもう、ほとんど黙契のようなものだ
それが未知の話でも都市伝説であっていいという新定義なのである
つまりは、何かしらの裏付けがとれて作り話だと判明した話と、もはや真偽の確かめようがなかったりまだ確かめられていない未知の話が都市伝説化する傾向にあるということなのだ
ここで二つめのポイントに目を通すと分かるだろう
また先ほどの虚構を事実としてマスコミや口承によって流布することから、このようなことに気をつけなければならない
『都市伝説として紹介されているからといってその話が絶対作り話だと、安易な解釈はしてはいけない』
逆なのだ。話が作り話または未知の話だとはっきりしたものに対して都市伝説を名乗るべきなのだ
2つのポイントをふまえて一例を紹介しよう
たとえば、「都市の下水道に巨大なワニが生息している」という都市伝説
一つめのポイントは、真実に見せかける犯行
たとえば、ワニの存在は、飼いきれずにトイレで流されたペットのワニが生き延びて増殖したものと説明される
他にもいくつも合理的な説明は添加することができる
しかも厄介なのは、その後付けは語り手だけによってではなく聞き手によっても行われる類のものだということだ
こうして真実と虚構が錯誤する話が出来上がったところで、次のポイントへと続く
この話は都市伝説として紹介されているが、あなたはこの話を初めて読んだときにこの話の真偽についてどう思うか
私なら、「都市の下水道にワニがいるわけないだろ。食べ物どうするんだよ。第一、いたらとっくに問題になってるだろ」などと思ってしまう
でもいくら私見を並べたって、この話の真偽を確かめるには証拠や科学的根拠が必要なのだ
でもよほど暇なひとでもいない限り誰もそんな実際に下水道の中を這って確かめることはしないだろう
だから、建て前ではこの話は未知、もはや真偽を確かめる術はないとして都市伝説化するのである
実際そうであったであろう。だからこの話はこれを作り話だと証明するものがないので未知の話の都市伝説、決して作り話ではないと言えるのだ
それを都市伝説だからといって作り話だと速攻決めつけてしまうのは良くない
それがどんなに作り話くさい話であってもだ
だから都市伝説は報道等を契機としてそれを信じる人が増えると、信奉者からの伝播によりますます流布,定着するという傾向がある
また、真実よりも扇情性を重んじる一部メディアでは、「これは実話でない」という記述をあえて見付けにくい場所に載せて読者を煽るという手法を取る事があり、都市伝説の起源となっている場合もあると思われる