ボクシングに関するメモ(主に井上尚弥)

2018-10-06 WBSSバンタム級一回戦:井上尚弥 vs パヤノ 戦を明日に控えて

日本が世界に最も誇れるアスリートは、個人的には大谷翔平でも羽生結弦でもない――井上尚弥だ。

私は今まで彼ほどわくわくさせてくれるアスリートを見たことがない。井上の試合は年に2,3試合あるが、それらの日は私にとって一年で最も楽しみな日になる。

井上はすでに米リング誌のパウンド・フォー・パウンド(PFP / 体重差がないと仮定した場合に全階級を通じてどのボクサーが一番優れているのか)でTOP10にランクインしている。井上がアメリカを主戦場としていないボクサーであることをふまえればこれは驚くべきことである。ほぼ日本国内で試合をしているのにもかかわらず、すでに世界から高い評価を受けているのだ。

明日、井上はWBSSトーナメント一回戦としてファン・カルロス・パヤノと対戦予定だ。この大会で優勝すれば、井上はバンタム級の3団体統一王者になれる。ボクサーとしてさらなる名声を手に入れることができるのだ。

まだ気が早いが、もし井上がWBSSで優勝した場合、リング誌のPFPは現在の7位から何位になるだろうか。私は3傑(3位以内)に入るだろうと思う。ワシル・ロマチェンコ、テレンス・クロフォードに続いて井上がPFP3位になると予想する。あるいは内容によってはそれ以上も見込めるだろう(大会全試合序盤KO勝利など)。

しかしWBSSで優勝しただけではPFP1位に立つことはできない。井上がこれからボクサーとしてさらに高い評価と名声を手に入れ(PFP1位)、そして何より強くなりたいと思っているのなら、一ファンとして私は以下の事を提言する。

井上がPFP1位を目指したいならば、

(1) アメリカを主戦場にすること
(2) 複数階級制覇や複数団体統一王者になること

(1) に関しては、世界的評価を高めるためにはそれが何よりの近道であることを表している。ボクシングの本場であり世界のボクシングの中心地であるアメリカで試合をしてインパクトを残さなければ世界的評価を得ることは困難だからである。現代のPFPボクサーのほとんどはアメリカを主戦場にしている。井上はアメリカでまだ一試合しかしておらず、現在は日本を主戦場にしている。これではいくら圧倒的な強さを誇るといえどもPFP1位になることは困難だ。現に今のPFPボクサーの中では井上の世界での知名度(特に米国)はまだまだ高いとはいえないのが現実だ。

(2) に関しては、一つの世界ベルトを何年も防衛すること(具志堅用高氏の持つ日本人の世界王座連続防衛記録の更新)にこだわるよりも、強い相手を求めて戦うことのほうが今のボクシング界において高い評価を受けることに由来する。強い相手と戦うこと、その具体例として複数階級制覇や複数団体統一王者になることが挙げられる。

井上がこの二つを実行するならば、将来PFP1位になることはほぼ間違いないだろう。なぜそう言い切れるのか――。理由は単純だ。彼は強すぎる。パワー、スピード、カウンター、ディフェンス、当て勘、リングジェネラルシップ(支配)、全てが一級品。まだ検証が十分ではない点はスタミナと打たれ弱さくらいだろう。彼にはそれだけの天才的な才能が、世界の誰にも負けない圧倒的な強さがあるのだ。

そこで今回のWBSSは井上の評価を短期間でさらに爆発的に高めるのにまたとない機会である。一回戦こそ日本開催だが、それ以降は米国や英国で試合が行われることが濃厚であり、日本国外での試合となればこれまで以上に世界が井上の試合に注目することになる。さらに他団体王者も参戦しているので強い相手と戦えるし(強い相手と戦えるということはそれに勝利すれば評価を上げることができるということ)、もし優勝すれば複数団体統一王者(3団体)にもなれるのだ。そうなれば彼は世界の誰もが知るスターになる。これほどうまい話はない。

とにかく、井上尚弥から目が離せない。明日の試合が非常に楽しみだ。

2018-10-19 WBSSバンタム級一回戦:井上尚弥 vs パヤノ の感想と井上の将来について

2018年10月7日に行われたWBSSバンタム級 一回戦、井上尚弥 vs ファン・カルロス・パヤノ の試合は、1R 1:10 で井上尚弥のKO勝利という結果になった。

パヤノは元WBAスーパー王者であり実績は十分、何よりもバンタム級のトップ選手8人に選ばれた選手だ。私はパヤノが決して弱くないことを知っていたので衝撃の結果にとても驚いた。「あのパヤノが……、ヤバっ、信じられない!」という気持ちだ。海外メディアやSNSもモンスター井上の衝撃の強さにかなり興奮している様子だ。

試合前、私はこの試合で勝利してもPFPの順位は変わらないと思っていた。しかしこれほどの圧倒的な勝利――ほぼ最初のパンチで相手をKOした――をあのパヤノ相手にしたので、結果的にリング誌はPFPで井上を7位から6位に引き上げた。抜いたのは39戦無敗の世界4階級制覇王者 マイキー・ガルシアだ。いまや井上はかつてのロマゴン(ローマン・ゴンザレス)に変わり軽量級世界最強との評価を揺るぎないものにしつつあるだろう。

現在のリング誌PFP(7位まで)は以下のようになっている。(2018-10-15 時点)

※将来PFP順位を落とさないかどうかの将来性について、〈安定 / 不確実〉にて表記。ただしこれは個人的見解に基づく。

1位:ワシル・ロマチェンコ (安定)
2位:テレンス・クロフォード (安定)
3位:カネロ・アルバレス(サウル・アルバレス) (不確実)
4位:ゲンナジー・ゴロフキン (不確実)
5位:オレクサンドル・ウシク (安定)
6位:井上尚弥 (安定)
7位:マイキー・ガルシア (安定)

私が思うPFPボクサーたりえる条件とは、“強い相手をいかに圧倒しているか”、“その時代における突出度”だと考えている。このうちの“圧倒”という点においては、“打たせずに打つ”ことは最大のポイントになりうる。ボクサーとしての完成度は、パワーやスピードといった攻撃力だけをみるのではなく、パンチをもらわないディフェンス力も同様にみるべきだと考えている。井上の打たせないディフェンス力はもっと評価されてしかるべきだと私は思う。井上は今でこそPFP6位だが、上記のPFPボクサーの中で最もポテンシャルが高く将来的に最強の名にふさわしいだろう。将来のPFP1位候補、世界的スターになる予感がある。マニー・パッキャオ、ロマゴンといったアジアの世界的スターに肩を並べる日もそう遠くないのではないか。

ただ一点不運なことは、中量級~重量級とは違い井上のいる階級層にPFP級の強い相手がほとんどいないことである。他のPFPボクサーに勝利して評価を高めることができないために、「強い相手と戦っていない」「雑魚狩りボクサー」などと言われてしまう。つまり世界的評価を高めるためには強い相手と戦う機会に恵まれる運も必要なのだ。

WBSSバンタム級一回戦では、現時点で井上尚弥とゾラニ・テテが準決勝進出を決めている。

残るは以下の二試合。

IBF王者 エマニュエル・ロドリゲス vs ジェイソン・マロニー
WBAスーパー王者 ライアン・バーネット vs 世界5階級制覇王者ノニト・ドネア

この二試合とも非常に注目だ。

エマニュエル・ロドリゲス vs ジェイソン・マロニー の勝者は準決勝で井上尚弥と対戦することが決まっている。今大会で井上尚弥に次ぐ優勝候補であり一番の強敵と言われているのがこのエマニュエル・ロドリゲスなのだ。ロドリゲスには強いなと思わせるような試合をしてもらって井上危ないんじゃないかと言われるくらい強敵になってもらいたいと思う。そのほうが盛り上がるので。

そして一回戦の最注目カードはWBAスーパー王者 ライアン・バーネット vs 世界5階級制覇王者ノニト・ドネア の試合だ。バーネットは逃げ腰のイメージだがポイントをとるのが上手くテテ同様になかなかの試合巧者だ。相手はかつてこのバンタム級がベストウエイトだったフィリピーノ・フラッシュ ノニト・ドネア。これは一回戦で最も注目のカードだ。数年ぶりにバンタム級に戻ってきたノニト・ドネアの実力はどうなのか。この点に関してはまったくの未知数で、やってみなければ分からない。この試合を見なければ今大会の展望を考えることはできないと思っている。ライアン・バーネットは強かなので私はバーネットの判定勝利と予想している。バーネットの母国開催(英国)である点も大きいだろう。

2018-11-09 WBSSバンタム級一回戦:バーネット vs ドネア の感想

2018年11月3日に行われたWBSSバンタム級 一回戦、ライアン・バーネット vs ノニト・ドネア の試合は、4R終了時バーネットの負傷棄権によりドネアのTKO勝利という結果になった。

4Rでバーネットが腰を痛めた――腰椎すべり症だったらしい――ことで負傷棄権となった。バーネットはスピードやキレがあり、ドネアがそのスピードについていけずにパンチをもらう場面もあったのでいよいよこれから楽しみになるというところでの負傷棄権は非常に残念。まさか試合中に腰痛を発症するとは、バーネットも不運だ。

このような白黒はっきりつかない試合になってしまうと、「あのとき負傷していなければバーネットが勝っていた」などの声も出てくるだろうし、そうなると階級ナンバーワンを決めるWBSSの意義が薄れてしまう懸念がある。

さて、記録上はドネアの4R TKO勝利だが、内容を見るとドネアがバーネットを圧倒したわけでもなく、この試合で“強いドネアが戻ってきた”と言うことはできない。私の採点では、バーネット:ドネア 1R 9:10、2R 10:9、3R 10:9、4R 8:10 で両者ほぼ互角だった。

ドネアはビックネームだがその栄光は過去のものであり、今この階級で強敵かどうかの評価は次戦に持ち越しの形となった。

それにしてもドネアは前日計量のときのダンスといい、立ち居振る舞いといい、バーネット戦後にバーネットに肩を貸したシーンといい、とても紳士で尊敬される人間性を持っている。多くの人が彼を尊敬する理由が分かった気がした。

2018-11-12 WBSSバンタム級 一回戦 を終えて

WBSSバンタム級一回戦で最もインパクトを残したのはやはり井上だった。バンタム級に上げてからの井上は明らかにその強さに神がかっていてスーパーフライ級よりも適正階級であることに疑いの余地はない。

テテの安全運転は派手さはないもののあのアロイヤンを封じ込めたアウトボクシングは強かに映った。決勝戦に勝ち上がってくる有力候補だろう。

ロドリゲスの入場曲がかっこよく、また彼にとてもマッチしていて魅了された。試合のほうはスタミナやボディの打たれ弱さに懸念が残ったものの、試合序盤のジャブのキレやボディブローを織り交ぜたコンビネーションは多彩で今大会の井上に次ぐ優勝候補との評価に変わりはない。

ドネアは第一シードのスーパー王者バーネットを相手に引けをとらない戦いを見せたことで前評判の低いオッズを覆す形となった。そして相手の自滅によって幸運にも勝ち上がった。

なんかシーサケットが「スーパーフライ級の全ての団体を統一したらイノウエと戦うために昇級を検討する」と今年8月に語っていたが、来春ともいわれるアンカハスとの統一戦に勝利したらWBSSの大会後に井上と戦うために昇級してくるような気がする。ビックマッチ志向のシーサケットがPFP級ボクサーの井上を見過ごすことはしないんじゃないかな。

さて準決勝に勝ち上がった4人を見ると、井上尚弥、エマニュエル・ロドリゲス、ゾラニ・テテ、ノニト・ドネアと結果的には良いメンバーが揃ったなという印象だ。

バーネットの敗退は驚きだったが、ドネアが久しぶりのバンタム級で無敗のスーパー王者相手に互角に戦えたことも証明できたと思うし、結果的にドネアが勝ち上がったことに失望はない。WBSS主催側としては欧州選手のバーネットがトーナメントから姿を消したことをさぞかし残念に思っているだろう。確かにバーネットの負傷棄権は不運であったが、しかしどんな形であれ負けは負け。一発勝負のトーナメントなのだから仕方がない。準決勝ではよりバンタム級にアジャストしてくるであろうドネアと強かな実力者 テテとの対決はかなり楽しみだ。

一方、井上にとっては今大会一番のライバルと言われている強敵 ロドリゲスと戦うことになったのは、彼の評価をさらに高める機会が訪れたという意味では幸運なカードになったといえる。世界中のファンやメディアは井上の真価が問われる一戦になると書き立てている。若くて今が旬の無敗王者との一戦は米国で行われるということもあって世界が注目する一戦になるだろう。

井上からしてみればようやく強い奴とできる、しかも米国で統一戦ということでモチベーションは過去最高になっているはずだ。次の試合への期間も十分にある。きっとまた衝撃的な強さを我々に見せてくれるだろう。

2018-12-12 ワシル・ロマチェンコ vs ホセ・ペドラサ

2018年12月8日に行われた、ワシル・ロマチェンコ vs ホセ・ペドラサ の試合は、3-0(117-109 ×2 、119-107)でロマチェンコの判定勝利という結果になった。ロマチェンコ、PFPのトップに君臨するボクサーは驚嘆の試合ぶりを見せた。今後のPFP決戦が楽しみだ。以下、私がつけた採点。

Vasyl Lomachenko vs Jose Pedraza

1R 9:10
2R 10:9
3R 10:9
4R 10:9
5R 9:10
6R 10:9

7R 9:10
8R 10:9
9R 10:9
10R 10:9
11R 10:7
12R 10:9

117-109 / Lomachenko WIN!

2018-12-12 アイザック・ドグボエ vs エマヌエル・ナバレッテ

2018年12月8日に行われた、アイザック・ドグボエ vs エマヌエル・ナバレッテ の試合は、3-0(116-112 ×2 、115-113)でナバレッテの判定勝利という結果になった。ドグボエの勢いもナバレッテにうまくかわされ、逆に脆いディフェンスが露呈した試合だった。これでSバンタム級も飛び抜けた強豪のいない混沌階級になってしまった。井上がPFP級ボクサーと戦える日はいったいいつになるのであろうか。シーサケットの昇級に期待したい。以下、私がつけた採点。

Isaac Dogboe vs Emanuel Navarrete

1R 10:9
2R 9:10
3R 9:10
4R 10:9
5R 9:10
6R 9:10

7R 10:9
8R 10:9
9R 9:10
10R 9:10
11R 9:10
12R 9:10

112-116 / Navarrete WIN!

2018-12-16 サウル・“カネロ”・アルバレス vs ロッキー・フィールディング

2018年12月15日に行われた、サウル・“カネロ”・アルバレス vs ロッキー・フィールディング の試合は、3R 2分38秒でカネロのTKO勝利という結果になった。カネロは相手に何度も効果的な左ボディを当てていた。そのボディショットはまるで井上尚弥を見ているかのようだった。以下、私が付けた採点。

Saul “Canelo” Alvarez vs Rocky Fielding

1R 10:8(ダウン)
2R 10:8(ダウン)
3R 2分38秒 TKO(2度のダウン)
TKO / Canelo WIN!

カネロの体つきは厚く、筋肉もりもりで、パワーの差は歴然だった。どんなに強くても、ドーピング疑惑があったものだからどうしても疑いの目で見てしまう。その強さが本物の強さなのか正直に信じることができない。なぜなら彼がクリーンだと証明されたわけではないからだ。疑惑すらも上がらないように努力するのがアスリート。他のスポーツと違って、なぜボクシングはドーピング違反に対する処分が甘いのか(プロボクシングの通常の試合間隔を考えれば6ヶ月の資格停止処分など無意味なのに)。ドーピング違反を犯してもなお、何事もなかったかのように興行のメインを張り巨額のファイトマネーを得ているのには違和感しか覚えない。

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