トロイの木馬の心理

承諾誘導の実践家は、自分たちの誠実さを見せるために、自分たちの利益に少し反すること、つまり小さな欠点をあえて言う。これをトロイの木馬の心理という

(例1) レストランでより多くの金額を一人の顧客から取るために、まず最初に客が注文した料理に対してもっと美味しくておすすめで、そして安い料理を提案する。客がその提案に応諾するかしないかに関わらずこの時点で、従業員に対する、安い料理を提供する利他心と、料理に詳しい信頼のおける専門家、という心理を客に抱かせる

(例2) 大手企業の人事部長に送る推薦状に、就職志願者について一つだけお世辞抜きの厳しい評価を書き、それ以外は全体的に肯定的な意見を事細かに書く

コツ[免疫効果]

情報の提示には、自分の考えに合ったよい面だけ、あるいは悪い面だけを提示する「一面的情報提示」と、良い面も悪い面も提示する「二面的情報提示」の二つがある。トロイの木馬の心理はこの二面的情報提示を上手く利用した承諾法である。例えば、ネットで人がモノを買うときに、まず商品を選ぶが、その商品の肯定的なことだけを見て購入するわけではない。欠点も調べ、その上で納得し購入を決めるのである。つまり肯定的なことだけを言ってもお客はそれで納得することはないし、むしろよい面だけ伝える販売員には不信を抱くだろう。欠点は、納得し購入してもらうために必ず必要なものなのだが、だからといって欠点をそのまま言ってもただそのまんまの欠点であるだけなので、これにさまざまな免疫属性を付加することを意識することが大切である。これを免疫効果[イノキュレーション効果]という。まずトロイの木馬の心理ではどのような属性が付加されているか

/a 欠点に付加する属性

(α) 小さい
全体に影響を与えないような小さな欠点をいう。これによって誠実さをみせる

(β) 最初に言う
欠点を最初に言っても「しかし」や「その代わり」などを用いて長所を生かすことができる
(β-例1) 「他社製品より割高ですが、その代わり、お肌を傷めません」
(β-例2) 「すぐに効果が出るわけではないですが、半年後ではかなり違ってきますよ」

(γ) 利他心
あなたのために欠点をお伝えする、ということを示唆する。それには、相手の特徴を見た上でどのような欠点を伝えるかということも重要である
(γ-例) 「お客様みたところ、機能重視のようななので、それでしたらこれが、少々高いですが効果に定評がありおすすめですよ」

――

欠点につける免疫効果は、欠点を欠点であると感じさせないための工夫であり、それは買ってもらう(承諾させる)ためが目的なのである。しかし、買ってもらうという販売をみた場合、買ってもらいたい理由は、単にその商品を買ってもらいたいのではなく、お金がもらえるから買ってもらいたいのである。高い商品を売ろうとすることに精を出すのもいいが、それだけではなく、継続的に商品を買ってもらうことも“お金をもらえる”目的の一つではないだろうか。継続的に商品を買ってもらうには、商品自体の魅力とお店(販売員)の魅力の二つがある。以下は販売員の魅力について書く

/b 利他心効果

欠点と長所を言うときにおいて一切の免疫効果をなくし、その代わりたった一つの属性を、商品にではなく商品を売る販売員に付加する。その属性が利他心である

例えば、この効果においてはよい面だけを言うこともあれば、欠点のみを言うこともあり得る。それは商品の特徴を包み隠さず、一切の免疫効果をなくして伝えるからである。欠点のみをいうことはその商品に魅力がないと思われるのは当然である。しかしこの効果の狙いは、そのときに商品を買ってもらうことが目的なのではなく、販売員の誠実と信用を買ってもらうのが目的なのである。お客に誠実と信用を植えつけることで、「私に合った商品を紹介してくれる」「次もこの人に頼もうかな」と思うようになり、長期的な視点で継続的に商品を買ってもらうことができる。そのために、欠点のあとに「しかし」などと言ってよい面も伝え、売り込もうとする気持ちを出すのではなく、あくまでその商品の特徴だけを誠実に伝えることに徹することが大切である。そして顧客の特徴をみた上でその商品が相手に合うかどうかを自分の考えとして伝えることだ。そこには、顧客のために業界に精通した専門家(プロ)が売り込むつもりのない純粋な商品説明をする“利他心”と“誠実さ”があり、それが信用と信頼を生む。ここでレストランの例をもう一度見てみよう

b-例

レストランでより多くの金額を一人の顧客から取るために、まず最初に客が注文した料理に対してもっと美味しくておすすめで、そして安い料理を提案する。ここで高い料理を売り込もうとする気持ちはない。しかしこのウェイトレスは、高い料理を売り込むためにはまず顧客から信用と信頼を買ってもらうことが必要であることを知っている。客がその提案に応諾するかしないかに関わらずこの時点で、安い料理を提供する利他心と、料理に詳しい信頼のおける専門家、という心理を客に抱かせる。こうなれば、次にウェイトレスが売り込みたい料理をおすすめすれば、客は必ずそれを頼むだろう

利他心効果は顧客に信用と信頼を抱かせることで初めてその効果の恩恵を受けることができる。なので顧客に信用と信頼を抱かせるまでの植え付け段階と、自分が売り込みたい商品を売る承諾段階の二段階から成る。重要なのは、自分が売り込みたい商品を売るのは、顧客に信用と信頼を抱かせてからにするということである。先ほどのレストランの例で、もし最初の提案だけで信用と信頼を抱かせるに至らなかった場合は、その日は徹底的に植え付け段階に徹し、「また来たい」と思わせるように心がけるべきである。そしてもし顧客がリピート(再来店)したときは、それはもうすでに顧客が信用と信頼を買っている証拠である

防衛法

防衛法は今のところ特に見つかっていない。たとえあらゆる心理を十分に認識していたとしても、トロイの木馬の心理を打破するのは究極に難しい。それだけこの心理は強大な力を持っている。ゆえに最も警戒しなければならない心理である


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