山奥のキャンプ場。
川の中州に作られたそこは、一時期のモノマニアックスなアウトドアブームの終了と、ニュースでも報道された遭難事故の為に既にさびれきっていたが、そこにテントを張った5人の男たちにはかえって好都合だった。
夜になると外には真の闇が広がり、音も川のせせらぎと、ときどきテントをささっとなでていく柳の枝の立てる音のみ。
既に明かりは消され、男たちはテント内の思い思いの場所で眠りについている。
イビキや、ときおり聞こえる体を動かす音が混じってはいるが、あいかわらずの静けさだ。
ひとりの男性がさっきから寝付けないのか、何度も寝返りをうっている。
屋外で眠るのは慣れっこなはずなのに、その夜は何故か体のどこかにイヤな感じがまとわりつくようで寝付けない。
男はその原因にやがて気づく。
柳の枝がテントを打つ、ザザー、ザザーという音が、寝る前より激しくなっているのだ。
しかもよく聞いてみると、音はこちら側を打っている…と思えば向こう側を打ち、また別のところを打つ。
テントの回りにはそんなにも柳は群生していなかったはずだが…と思った男は、さらにその音には規則性があることに気がついた。
ザザー、ザザーという音は、テントの回りをゆっくりとぐるぐる回っているのだ。
男はテントから顔を出し、音の正体を確かめようとした。
そして運悪く、ちょうどテントの角を曲がってきたそれと顔をつきあわせてしまった。
それは、長い髪の毛をざんばらに振り乱す、ゲタゲタと笑う若い女だった。
のちに分かったことだが、その女は近くの村に住む地主の出戻りの娘さんで、どうやら精神に異常のある人だったらしい。
その翌朝テントから出てみると、女はどうやら裸足だったようで、テントのまわりには血で押された女の足跡が円を描いていた。