集団が個人に与える影響のことを社会的証明という。または人同士(集団対個人)の関係性のことをいう
(原理) 自分自身に確信が持てないとき、状況の意味が不明確あるいは曖昧なとき、そして不確かさが蔓延しているときに、私たちは他者の行動を正しいものと期待し、あるいは求めようとし、それを受容する傾向がある。特に、類似した人を真似る傾向がある
目次
社会的証明の同調効果
集団が一貫したある行動をとるとき、個人もそれにならう傾向がある。これを社会的証明の同調効果という。数人が「イエス」と言ったら、全員が「イエス」になる罠を理解していなさい。断言や決めつけに対して、「本当にそうなのか?」「他の側面はないか?」と何度も問い続ける。そして相手の例外を見つけ、そこを強化する。普段見ていない側面を、極力観察しなさい
/a 全員一致の同調効果
全員一致の集団圧力は相手の心を動かす強力なパワーがある。ところで、このパワーの原理とは、人数によるものなのか、それとも全員一致という事実なのか。ある集団圧力の実験がある。七人の集団に質問をする。七人中、六人がそろってウソを答えると、このとき残された一人は強い集団圧力を感じ、自分では間違いと思っていても、他の六人に合わせた答えを出した人が30%以上出てきた。では、その六人のうちの一人だけが、他の五人が間違いの答えを出したときに、正しい答えを出したらどうなるのか。残された一人にまだ多数圧力はあるのだが、かなりパワーが落ちることが分かった。六人全員一致のときには30%を超えていた同調行動が、違う人が一人いるだけで、一気に10%に落ちたのである。「他の人と違った意見をいう人がいる」という気持ちが同調行動の心理を弱めたといえる。つまり、全員一致というのは人数によるのではなく、それとは異質の絶対的パワーをもっているのだ。したがって、誰かを多数で動かそうと思えば、一人や二人欠けてもしかたがないとあきらめず、なんとか全員を取り込むことが効果的だといえる。では、最初に集団多数に不一致の人がもう一人いたのに、その人が途中から他のメンバーと同じように意見を変えて間違い始めるとどうなるのか。残された一人は、頼りの一人に逃げられてしまい、また全員一致の圧力を受けるのである。それも、自分と同じ立場だった人が去ったことで気持ちが弱くなり、全員一致のほうへより強く心を動かされやすくなったのだ。つまり、全員一致の同調効果を最大限引き出すには、対象の人と同じ立場の人を一人か二人作っておいて、そのほかは反対意見の“仮の全員一致”の状態を作り上げる。そして議論の途中で対象の人と同じ立場の人全員を寝返らせて、“完全なる全員一致”の状態を作り上げることで集団圧力のパワーを最大限引き出すことができるだろう
社会的証明の不安効果
集団生活において、みんなと違うと不安になる心理がある。この効果を誘導に使うなら、不安をもたせるということを心がけるのだ
集合的無知
集団の中で無関心を生み出す現象を集合的無知現象という。以下のときにこの現象は起きやすい
・混乱していること、状況が分かりやすいこと
・人が多いこと
・交友関係が低調なこと、つまり集団より群集
例えば事件の中でも、深刻であれば傍観者が一人の場合でも集団の場合でも、援助する可能性は高まる。しかし深刻でないほど、傍観者が一人の場合より集団の場合のほうが「無関心さ」は高まる傾向にある
防衛法
社会的証明に惑わされずにしっかりと自分の判断をしたいなら、集団の存在を消して考えてみる。もし周りに人がいなかったら、もし周りがそういう選択をしていなかったとしたら、それでも自分は同じ判断をするだろうか、と内省してみることが大事である
社会的証明の無自覚
社会的規範が個人の認識に影響を与えて無自覚を生み出すことを社会的証明の無自覚という
異常者は自分が異常だということを自覚できないが、正常者も自分が異常だということに気づくことができない。それは正常者は周りから正常者だと証明されているからである。あるいは、異常者というものの概要を社会からすでに取り込んでいるからである
集団の低位価値
企業などにおいて、周囲が「こいつはダメ」と見ると、本人はダメになる。そしてそのダメな本人がその場からいなくなると、周囲はまた別の「ダメ」な対象を探す。これを集団の低位価値という。このような企業は大量採用、大量離脱をくり返す
盛況感
盛況感は人に影響を与える。盛況感を演出するのはブランディング戦略の一つである。行列ができるラーメン店は、決して店を大きくして席数を増やしたりはしない。顧客は待たずに食べられるラーメンより、30分並んでようやく食べられるラーメンを求めているからだ。また、盛況してきたら名前を付けることも知名度アップにつながるブランディング戦略の一つである
ノーパーソナル
パーソナルな時間や環境ではない所に長時間居ると心理的・身体的に疲れるなどの変化が起こる。これをノーパーソナルという
ずっとオープンスペースに居ると緊張して疲れてしまうのはこの心理によるものである
集団極性化
通常、私たちは「みんなで話し合う」ということでより理性的で客観的な判断が下せると思い込んでいるが、実際は集団で討議したほうが、極端に冒険的で、極端に慎重という傾向が見られる。これを集団極性化という
規範の同調効果
先に規範(行動基準)を見せると、それが正しいものと判断し、後に同じような場面に出くわしたときにその規範と同じ行動をとる傾向がある。問題なのは、その規範が操作されたものでないかどうかということであるが
雰囲気の相場
場には、価値や程度を決める相場がある。なにをしてはいいのか、なにをしてはいけないのかというようなその場においての規範や適切な振る舞いを決定する元になる。その判断においては、人は周りの人を見て判断したり、社会的規範の先入観で判断したりする。ちなみにこの心理に頼りすぎた結果がステレオタイプ(“用語解説”)である
(例) 私たちは面接会場では慎ましい振る舞いをする。周りが慎ましい振る舞いをしているし、自分でもそれが適切だと考えているからである
a 応用
雰囲気は、人の、価値や程度を決める判断の元になる非常に重要な基幹である。これはつまり、雰囲気を操作することによって人も操作できるということである。これを承諾誘導に応用したのが“コントラストの原理”である
b 防衛法
なにをしてはいいのか、なにをしてはいけないのかというような規範はものの判断において非常に役に立つことが多いが、それに頼りすぎるのもよくない。考え方が固定化され、流動的な価値観をもつことができなくなる。その結果、つまらない人だと思われるばかりでなく、本当につまらない人生になるだろう。規範に頼りすぎないようにするには、疑問と好奇心に素直に向き合い、羞恥心など無くして、成功も失敗も人生の経験だととらえることが大切である。自分の価値観をしっかり持ち、雰囲気や周りの環境に流されない規範をもつことである
そう、規範が悪いのではない。雨が降るから不幸なのではない。失恋したから不幸なのではない。事実や概念はあなたを傷つけない。あなたを傷つけるのは、あなたの扱い方が少し下手なことだけ
集団思考の誤り[集団凝集性]
集団が出す答えには様々な人間関係の具現が表出していて、とても完璧とは言いがたい。それはなぜか。まず、嫌いな人と会議をする利点は、反対意見をきちんと主張できるところにある。相手の意見に反論するという行為は、相手の人にマイナスの反応をするということだから、好意の感情をもっている人にはやりにくいものだ。特にメンバー同士お互いに好意をもって、強い結束力を誇っているような集団のなかで反対意見をいうのは、和を乱すことになるので、はばかれるでしょう。同じように、課長や部長の考えはおかしいと思っても、なかなか言い出せないのが普通だ。こうして、集団の和は保たれ、凝集性[ぎょうしゅうせい]の高い集団として動いていくことになる。しかしこれでは本当の意味の議論がなされたことにはならない。課長や部長の意見は、上司の意見ということで、いい悪いにかかわらず、満場一致で通ってしまうものであるからだ。これを集団思考の誤り[集団凝集性]という。集団は間違った方向にいき、メンバー個人も、自分のいいたいこともいえず、やりたい仕事もできなくなっていく。一方、嫌いな人との会議ならどうだろうか。相手に嫌われるといった心配はいらないため、自分の思っていることをズバズバ主張できるのではないだろうか。相手が反対意見を出しても、それに遠慮なく真っ向から反対し、自分の意見を主張できる。つまり、会議は嫌いな人としたほうがよい結果を生むといえる。歯に衣[きぬ]着せずに自分の意見が言えたとき、自分が本当はどういうことを考え、したいと思っているかが、みんなにわかってもらえるはずである。そしてそれは自分自身を再認識することにもなるかもしれない。自分の意見を裸にする意味でも、嫌いな人との議論は役立つといえる
空間の集団心理
十人前後で話し合う会議の場合、大きくてゆったりした部屋を使用する場合と、狭くて込み入った部屋を使用する場合とでは、同じ構成メンバーでも会議自体が違ってくるといわれ、結論も変わるといわれている。これを空間の心理という。女性だけで構成されたグループで会議を行った場合、大きい部屋より小さい部屋で会議をしたほうがお互いなごやかで快適な雰囲気になり、審議でも厳しくない判断が下される傾向にあった。一方男性だけで構成されたグループで会議した場合は、女性グループとは逆で大きな部屋のほうがなごやかな雰囲気になり、小さな部屋だと互いに攻撃的になり、競争し合う傾向がみられた。審議でも小さな部屋のほうが厳しい判断が下された。ちなみに男女混合グループではこのような差異は認められなかった。例えば男性が多くを占める会議において、ホンネを出して活発な議論をしたいなら、少し狭い部屋を使用したほうが効果的であるといえる。会議を形式的に終わらせたいケースなら、出席者の人数に対して、やや広めの部屋を使うのがよい
テーブルの集団心理
a 円形テーブル
円形テーブルでの集団対話の場合、円形だと上座がつくりにくいため、リーダーシップがとりづらい。その代わり、出席者全員が自由に意見を出し合うには効果的であるといえる。誰に対しても対等な発言権を与えるので、和気あいあいとした会議が行える。また、角テーブルに比べて対人距離がお互い近いため、親密性が高まる。このように、テーブルが集団に与える心理をテーブルの集団心理という。こんな実験がある。面接の場で円形テーブルと角テーブルを使った場合、それぞれの面接官に対する印象がどう変わるかを調べたところ、円形テーブルで話をしたほうが、面接者を、公平で、親しみがあり、権威的でなくオープンな人物であると評価した。円形テーブルはやわらかいイメージと結びつき、相手に好印象を与えるわけである。例えば、ブレーンストーミングなどを行うなら、円形テーブルで、かつ人数に比べて少し小さめの部屋を選ぶと効果的である。通常の会議よりも込み入った感じになり、親密度が高まるとともに、男性同士なら攻撃性・競争心も高まるので、より白熱した議論が期待できる。ところで、もし円形テーブルでリーダーの特別な席をつくる場合は、リーダー的存在の人の左右を空席にするとよい。この空間によって心理的な角ができ、周囲とは一線を画することができる
b 角テーブル
角テーブルにはリーダーをつくり出す力が潜んでいる。なので、会議などや話し合いの場で自分がリーダーシップを取りたいと思っていたら、角テーブルの二つの位置を確保するのが効果的である。いずれも辺の真ん中の席を確保することが大切なのだが、テーマや案件の解決に主眼を置き、話し合いをどんどん引っ張っていくタイプなら、短辺の真ん中(一人掛けの席)に座るのが望ましい。一方、参加者の対人関係を重視するタイプなら、長辺の真ん中の席に座るのが望ましい。いずれの席も、角テーブルでの集団対話において主役となりうる重席である。一般には、フォーマルな会議では短辺の真ん中(一人掛けの席)に座り、ブレーンストーミングのように全員参加のほうがいい場合には長辺の真ん中の席に座るのが望ましいといえる
スティンザー効果
ある発言のすぐあとに発言する人は、その発言に対する反対者であることが多い。これをスティンザー効果という
a 応用
自分の意見を通したいときに、同じ意見の持ち主と事前にちょっと打ち合わせをしておくとよい。「私が発言した直後に、賛成の意思表示をしてくれないか。逆にあなたが発言した直後には私も賛同しよう」と。ただ一言、「今の○○さんの意見に、私も賛成です」といってもらうだけでよい。発言のすぐあとに賛同意見をいうことで、予想される反対者の発言機会を奪ってしまうのだ。反対者は、あなたの意見を聞きながら、すぐさま反論しようと躍起になっているので、そこへ絶妙のタイミングで賛同意見が出ては、発言のタイミングを失ってしまうことになる。その上、賛同者によってあなたの意見が強化されているから、もしそのあとに反論が出ても、出席者に与える影響は弱まるといえる。したがって、もし仮に賛同したい意見が出たら、その直後にあなたが賛成意見をいえば、会議の流れをコントロールすることができる
自信と依存度
人は自立性や自信が高いほど自任し、周りへの依存度は低くなる。反対に、困っているときや悩んでいるとき、自信のないときには他人の言うことに耳を貸したり助けを求めたりする。自信と依存度は反比例の相関関係にある
海外旅行に行った際、見慣れない異国の地、見慣れない異国の人々、聞き慣れない異国語に囲まれた環境において、突然自分と同じ日本語を話す人や日本人が話しかけてきたら、私たちはその人が他人であるにもかかわらず無意識に親近感を高める傾向にある。異国の地という自立性の低い環境が、自分を助けてくれる人、あるいは自分と共通点の多い人に対する警戒心を解き、相手への依存度を高める原因となっている。一方で詐欺師がこういった心理を巧みに悪用するケースもある